大和三山の一つ、畝傍山のふもとにある畝火山口神社

(橿原市大谷町)の夏祭りは、「でんそそ祭り」の別名

で知られる。社前で打ち鳴らされる太鼓の音が「でんそそ」
と聞こえたことに由来するという。

祭礼で神前に供える水は２日前の朝、約15キロ南の吉野川

でくみ上げる。この「水取り神事」は、地元の人たちに支

えられて今に続いている。
江戸時代は、神官が12人の武装した供と列を組んで峠を越え

たと記録に残る。

7月26日午前10時前、吉野川沿いの大淀町土田地区に、

畝火山口神社の大谷仁紀子宮司( 68 )が着いた。
小雨が降る中、近くの住吉神社へ。
地区の男性役員7人が「住吉さんは水の神様やから、雨は縁起

がええんや」などと話しながら同行。
神前でお祓いをし、水をくむ許しを祭神に乞うた後、川に向かった。

近鉄線の線路を越えた堤に、高さ約15ｍのケヤキが立っていた。
神武天皇や神功皇后が植えたという伝説が残る神木だ。
そこから「ケヤキウラ」と呼ばれる河原に下ると水取り場があった。
石が組まれ、2本の竹が水中に差されていた。
竹にはしめ縄が張られ、紙垂（しで）が垂らされていた。

日ごろ人が立ち入らない河原への道を清め、水取り場の

準備をしたのは地区の人たちだ。3日前に掃除した際、ス

ズメバチの巣を見つけて駆除したという。

地区の役員が低頭して見守る中、大谷宮司が祝詞を奏上

し、手おけで水をくんだ。

近くに住む井出奈良美さんは「なぜこの場所なのか由来は
わからないが、親も祖父も関わってきたので大切にしたい」と話す。
「先々代の宮司さんは神事の後にふんどし姿で川を泳いで、
うちで昼寝をしてから帰らはったよ」と昔を懐かしんだ。

28日朝、畝傍山の周囲に太鼓の音が響いた。
畝火山口神社の本殿に、2日前にくんだ神水を入れたおけが
供えられた。厳かな神事に、井出さんら土田地区からも5人が参列

した。歌や楽器演奏の奉納が続く。夜の盆踊りやカラオケ

大会へと続く、にぎやかな１日が始まった。